多発性硬化症は、中枢神経系の脱髄疾患で、自己反応性の病原性T細胞が関与する自己免疫疾患です。実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は、実験動物に髄鞘由来のタンパク質やペプチドを抗原として免疫することによって、中枢神経系に脱髄を誘導し、多発性硬化症のモデル動物として広く用いられています。
私たちは、北海道大学 遺伝子病制御研究所の村上 正晃 教授との共同研究により、EAEマウスの脊髄では、少なくとも3種類の細胞(活性化ミクログリア、マクロファージ、シュワン細胞)が病態の進行と寛解に伴い時期および細胞特異的にgalectin-3を発現することを明らかにしました(図1)。

寛解期マウスの前根(運動神経根)において、galectin-3陽性シュワン細胞が出現することから、神経の修復過程におけるgalectin-3の役割に注目しています。
末梢神経では、損傷された神経はワーラー変性により除去され、その後、軸索が再生しますが、損傷された末梢神経ではgalectin-3陽性のシュワン細胞が出現します。galectin-3は未分化シュワン細胞に発現することが明らかになりつつありますが、その働きはよくわかっていません。EAEマウスでは前根にのみgalectin-3陽性細胞が出現することから、後根と前根、そして、脊柱管より外に分布する末梢神経ではシュワン細胞の性状が異なることが予想されます。神経の「修復しやすさ」とシュワン細胞におけるgalectin-3発現には何らかの関連性があると予想しています。
本研究に関する発表論文
- Nio-Kobayashi J, Itabashi T
Galectins and their ligand glycoconjugates in the central nervous system under physiological and pathological conditions.
Front Neuroanat 15:767330, 2021 - Itabashi T, Arima Y, Kamimura D, Higuchi K, Bando Y,
Takahashi-Iwanaga H, Murakami M, Watanabe M, Iwanaga T, Nio-Kobayashi
J.
Cell- and stage-specific localization of galectin-3, a β-galactoside-binding lectin, in a mouse model of experimental autoimmune encephalomyelitis.
Neurochem Int 118: 176-184, 2018