パーキンソン病やハンチントン舞踏病の患者さんたちが、自分のイメージ通りに動くことが難しいのはなぜか? 逆に言えば私たちはなぜ思った通りに動けるのか? 私たちの研究グループでは、学習と運動の連携、つまり「文脈に沿った行動選択」を実現する脳部位である大脳皮質ー基底核ー視床ループを解明するための研究をしています。
これまで脳の作動原理は、複雑な神経回路網の中に埋もれて、そのデザインを読み解くことが難しい状況にありました。しかし科学の進歩はそこに風穴を開けようとしています。私たちの研究グループでも、形態学、電気生理学、遺伝子工学を駆使した多様で新しい実験手法を導入しています。例えば遺伝子組み替えウイルスベクタを用いた特異的ニューロン標識、共焦点レーザー顕微鏡やニューロルシダなどを用いた神経再構築、光遺伝学(オプトジェネティクス)を組み合わせたパッチクランプなどです。形態学などの静的なアプローチには精緻さを追求できる利点があります。これに電気生理や光遺伝学などの動的なアプローチを組み合わせることで、包括的に脳の基盤図を解明します。さらにこうして手に入れた正確な地図をもとに、特定の神経システムが傷害される神経変性疾患の病態解明と治療応用に貢献したいと考えています。
パーキンソン病の原因となるドーパミンニューロンは、運動調節だけでなく、報酬を基盤とした強化学習など、高次脳機能もコントロールしています。感覚、運動、認知、情動など、あらゆる要素が同時期に影響しあいながら機能しているのが脳の醍醐味と言えます。大胆にそしてあくまでも緻密にその謎に迫りたいと考えています。